“部下とのコミュニケーション”に悩むマネージャーへ【3つの教訓】
-年上の部下、若い部下、異性の部下と良い関係を築く方法-
あなたは、部下との対話や関係がうまくいっていますか?
仕事で関わったマネージャーの方々に「あなたのコミュニケーション分野の悩みはなんですか?」と聞きますと、多くのマネージャーから共通の課題が出てきます。それは、「年上の部下との関係づくりが難しい」、「年齢の離れた若手と何を話せばいいのかわからない」、「異性の部下にどう関わればいいのかわからない」・・・といった内容です。つまり、年齢や特性が自分とは大きく異なる(ように思える?)部下との「対話と関係づくり」に悩んでいるということです。さて、あなたは「部下との対話や関係」がうまくいっていますか?
私が30年間で実践してきた「3つの教訓!」
人間関係というものは数式のようには明確な答えが出難いテーマだと思いますが、私が30年にわたって実践して“これは使える!”と思った教訓を3つに集約してお伝えしたいと思います。
私はこれまでのキャリアにおいて多くの人々と対話を行い関係づくりに取り組んできました(マネージャーとして15年間数100名の部下と関わり、営業職として2000社以上の顧客に提案をし、プロコーチとして5000回以上のコーチングを実施してきました)。どんな部下やお客様とも完璧な関係が築ける魔法のような方法はありません。しかし、これからお伝えする「3つの教訓」を意識して行動することで、私は管理者として、営業職として、プロコーチとして、多様な年齢と個性をもつ方々と「親しい関係」や「協働する関係」「信頼し合える関係」を築きながらここまで働いてきました。相手の属性に関わりなく(年上でも、年下でも、異性でも関係なく)、この「3つの教訓」は“使えます!”これからお伝えする「3つの教訓」が、あなたにとっても役立つものになることを期待します。
教訓1 相手を良く知り「違い」を許さないと、うまく関われない!
古い諺に「人を見て法を説け」というものがありますけれど、私はこの諺に習って、相手がどのような人なのかを十分に知って(或いは想定して)、その人が受け取りやすい関わり方をしようと心掛けてきました。
「人間関係トレーニング 出版:ナカニシヤ出版」という書籍に“コミュニケーション・モデル”という理論が紹介されていて、人の違いということがわかりやすく説明されています。
人はぞれぞれに価値観、人間観、人生観、仕事観等に違いがある、つまり、異なる価値観を持つ親に育てられ、異なる友人に影響され、異なる書物を読み、異なる経験を重ねて生きてきているから、考え方や見解に違いがあるのは当然のことであるということです。
職場では、そのような人生のバックボーンに多くの違いを持つ人たちがはじめて出会って、対話や関係づくりを始めるわけです。例えば、共通の仕事について対話を行っているときでさえも、お互いのバックボーンには相当に異なる知識・経験・価値観などがあり、その違いが話す内容や受け取り方にとても大きな影響を与えていると考えられます。・・・ということは、お互いの意見が違う、受けとめ方が違う、何を考えているかわからないといった現象は、当然のこととして起こるということです。
私は、年齢や個性の異なる多くの方々との関わりを経て「人の違い」を強く感じていましたが、この書籍を読んで改めて「たしかに人はそれぞれに相当な違いがある!」「人には大きな違いがあるということを出発点にして、その違いがある相手と、どう関わっていけばより良い関係が築けるかを考えていこう!」と思いました。
そして、「人の違い」を前提にして相手と関わっていくことで、私の人間観が変化していきました。
それまでは、自分とは異なる価値観や意見を持つ人対して「それは違うな」「この人はわかっていないな」と否定的に見ることがありましたが、やがて(少しずつではありますが)、その違いをある程度「許容できる」ようになり、「なぜそのように違う見解を持つようになったのか」ということに関心を向けて聞いてみることもできるようになりました。
人との関係づくりの最初の一歩は『違いを許容する(受け入れる)』ことだと思います。
さらに「違いを許容する」ためには、相手をより良く知ることがとても役に立ちます。
私たちは職場で関わる人々について「どのような特性を持つ人なのか」を知らなさすぎると思います。その人の価値観などは当然に分からないですし、ヤル気が出る時、ヤル気が失せる時さえ知らないのではないでしょうか。
人間関係づくりも、ある意味マーケティングと同じで、「相手がどういう特性や個性を持つ人なのか」を把握してから、その人が欲するであろう商品を創って提供することでビジネスが成り立つように、相手が『どういう人なのかを知れば知るほど』に、違いを許容できるようになり、どのように関わればうまくいくのかがわかってきます。
(では、相手の何を知ればいいのか?)
- これまでの人生とキャリア(どのような環境で何をして、何を身に付けてきた人なのか)
- 気質、性格(どのような気質で、どのような言動をとる傾向があるのか)
- 仕事をする動機(お金を得ること以外の働く目的、ヤル気が高まる時、ヤル気が失せる時)
- 価値観、人間観、人生観(どのような考え方を大切にしていて、どのように物事を捉える人か)
- 仕事の進捗(仕事でうまくいっていること、困っていること)
- 仕事の知識、技能、考え方(どのような知識と技能と考え方を持っているのか)
- 個人的な事柄(健康状態、家族、休日、好きなことなど)
上記のような事柄を雑談、面談、お酒の場などで少しずつ把握していくことで、本当はどんな人なのかがわかってきます。相手が何を求めているのかがわかり、どのように関われば良いのかが見えてきます。興味を持つ話材もわかります。まずは、部下のことをもう少し知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
教訓2 相手を「存在承認」しないと、信頼関係は築けない!
「存在承認」とは相手の存在をみとめる(大切な存在として受けとめる)ための全ての行為を指します。相手に関心を示し、声をかけ、仲間に入れる、愛情を持って改善点を指摘する等の行為です。
どんな人に対しても関心を持って関わるということはそれほど簡単な事ではないと思いますが、この存在承認があって初めて相手も心を開き始めます(逆に、私たちは自分の存在をみとめていないと思える相手には、防衛的になり心を閉ざします)。
例えば、仕事における「報告・連絡・相談」という行為も、相手の存在をみとめる(価値ある存在として見る、相手を大切に思い配慮する)行為と言えます。大切な存在だと思うからこそ、部下に対しても丁寧に「報告・連絡・相談」を行うということです。
管理者であるあなたから先に部下に対して存在承認を行為で示すことで、部下は少しずつあなたに対する愛着と信頼の気持ちを高めていきます。存在承認を受けた部下は、やがて上司であるあなたを大切な存在と思い「報告・連絡・相談」をこまめにしてくれるようになる可能性もあります。
まだ良い関係が築けていないと思う部下がいたとしたら、「毎日ひと言声をかける」、「小さな変化を見つけてひと言伝える」等、小さな存在承認をすることから始めてみてはいかがでしょうか。
(部下に対して、すぐにできる存在承認)
- こまめに仕事に関する「報告・連絡・相談」を行う
- 特にその部下が関わっている仕事に関する「報告・連絡・相談」を行う
- 毎朝、その部下の顔を見て気持ちを察する「今日は元気そうだな」
- 退社時に、ひと言声をかける「今日も頑張ったな」
- 小さな進歩や努力を見つけて、「おっ良くなっているね」と伝える
- 成長のための課題を見つけて、「ここをこのように改善しよう」とリクエストする
教訓3 自分の視点を広げないと、投げ出したくなる!
あなたの関わり方の変化によって関係性が改善される部下もいるでしょうが、いつまで経っても心を閉ざしたままの部下もいるでしょう。やがては、あなたも疲弊してその部下との関わりを放棄したいと思うようになるかもしれません。
そのような時に、あなたにふたたび活力を与えてくれるような視点を持っていると、また前進することができます。
私が人間関係づくりにおいて挫けそうになった時に、悩みながらも「ちょっと待てよ。なかなかうまくいかずに嫌になってきたけれど、何か自分に勇気を与えてくれるような考え方はないかな・・・」と思いをめぐらし、少しずつ身につけてきた視点をご紹介します。
「この人生で、縁あってこの人と出会った」という視点
不快を感じる人間関係に嫌気をさすことがあります。それでも職場では長期にわたって続けざるを得ない人間関係というものがあります。当然私にも「もう、うんざりだ!」「許さない!」と強い憤りに浸る時期がありました。
しかしながら、そのようなストレスを抱え続けていると自分が疲れてきて、やがて「ちょっと待てよ、このままでは自分が不快なだけの状態が続く。それはバカバカしい、人生がもったいない」と考えて、その不快な現象に肯定的な意味づけをしようと考え始めました。
そしてようやく辿り着いた視点が「このかけがいのない人生で、なにがしかの意味のあるご縁によって、この人と出会ったのではないか」というものでした。
「その意味のあるご縁というものを、もう少し探求してみるか」という考えに至り、かなり気が楽になりましたし、この探求はおもしろいという感情さえわき起こってきました。不快な出来事に対する「耐力」のようなものも向上したように思います。
「自分の器を広げるトレーニング」という視点
上記の視点をさらに推し進めて考え出したことが、「この不快な経験は、自分の器というものを拡大強化するトレーニングの機会として起こっているのではないか」というものでした。これも自分に勇気を与える視点となりました。
「より積極的にこの人に関わってみよう、そして人間力なるものの筋肉を強化してやろう」というアグレッシブな心の態度を少しずつ身に付けていきました。
「この人生を懸命に生きる仲間としてリスペクトをする」という視点
気分が落ち着いたときに、うまくいかない人間関係について熟考していると、やがて頭に浮かんできた視点がありました。それは、私のとってとても強力な武器になりました。その視点とは以下のようなものでした。
「この人は、おそらく人間関係づくりが不器用なのだろう」
「それでも、懸命に自分の人生を生きてきた存在なのではないか」
「不器用であるがゆえに余計にたいへんな人生だったのではないか」
「それを経験して今ここまで生きてきている、この人はリスペクトすべき存在ではないか」・・・
少し心を静め、自分の視野を広げて人や物事を眺めてみますと、新しい視点を発見することがあります。
「清濁併せ呑む」という視点
いろいろな新しい視点を取り込みながら人と関わってみても、それでもうまくいかない関係というものがあったりします。できれば離れたい、離れた方がお互いにいいのではないかと思えるような関係もあります。
しかしながら、職場ではその関係をさらに続けなければならない場合が多いと思います。そのような時に私を助けてくれる視点は「清濁を併せ呑む」というものです。
自分が勤めた会社の創業者や顧客企業の経営者を見ていますと・・・、相当に多様で個性的な人材と、日々発生するいろいろな問題を抱えながらも、まさに逞しく会社を前進させていることに気づかされました。
部下に対して「清濁」という表現はよろしくないかもしれませんが、経営者は多様な個性を持つ人々を併せ呑む度量を持っています。私はその姿に刺激を受けて考えました。「小さな?人間関係程度に悩んではいられないな」「うまくいかない関係も併せ呑んで、次に進もう」といった視点を持てるようになりました。
最後に・・・いまはうまくいかない部下との関係性が、よりよく変化することを願っています。あなたが多様な個性を持つ部下の方々を、逞しくリードできるようになることを願っています。